阿波踊り(徳島)
阿波踊りは多分日本でいちばん有名な祭であろう。徳島で8月12〜15日に行われる祭で、毎年この時期には100万人を超える人々が集まるという。有名な「チャンカチャンカ」のリズムに乗ってさまざまな連が踊り歩く。「踊る阿呆に見る阿呆同じ阿呆なら踊らにゃそんそん」という有名な囃子言葉にもあるとおり、飛び入り参加も可能で、非常に大規模で、活気あふれる祭である。
私が阿波踊りに行ったのは大学二年の夏であった。その時はJRの「青春18切符」を使って、鈍行を乗り継ぎ20時間くらいかけて行った。非常に疲れるが、2500円くらいで横浜から徳島まで行けるし、瀬戸大橋から望む瀬戸内海は素晴らしいので、おすすめである。
もう暗くなった頃であろうか、やっとの思いで徳島駅に着き、駅を出た瞬間、なにか物凄い迫力が伝わってきた。熱狂的なお囃子のリズムがいくつも混ざり合って得体の知れぬ迫力として伝わってきたのである。
近くまで行って人垣のすき間から見たのだが、一番印象的だったのは、どこかの大学の連を見たときである。一升瓶を持ち歩き、大騒ぎをしながら歩いているだけなのである。お囃子も適当に太鼓や鉦をガンガン打ち鳴らすだけで、とても音楽といえるものではなかった。しかし、それもれっきとした「連」であり「阿波踊り」なのである。
阿波踊りのよさは、長い伝統を守りながらも、「阿波踊りはこうあらねばならない」といったことを言わないところだと思う。洗練された素晴らしい踊りを見せる連と、ただの大騒ぎ連が、どちらも認められ、同じ舞台で踊れる、この包容力が阿波踊りの最大の魅力だと思った。
宿は、徳島はもう一杯だったらしく、香川で宿をとった。香川といえば讃岐うどんということで、毎食毎食うどんばかり食べていた。びっくりしたのは、駅前の立ち食いの店でも手打ちなのである。そして、素うどんで一杯130円くらいと安く、非常に美味しい。店によっては麺と具がバイキングのように置いてあり、客が勝手にうどんを茹でて具を載せてつゆをかけて食べる店もあり驚いた。うどんは130円くらいなのに、なぜかそばは200円以上するのにも驚いた。「そばなんか食うな」と言わんばかりであった。
さて、二日目であるが、ここで印象に残ったのは、私達が勝手に「ヤクザ連」と呼んでいた連である。すごいのがお囃子で、こわおもてのオッサンたちが、ビンビンに張った10台以上の大太鼓を物凄いパワーで打ち鳴らすものだから、その前や後ろを練り歩いている連のお囃子が全く聞こえず、みんなヤクザ連のリズムで踊っていた。ヤクザ連は、大太鼓以外はあまり憶えていない。
阿波踊りを見ていると、道をボロボロの自転車に乗ったヨボヨボのじいさんがヨタヨタ通過した。よく見ると、背中に「天皇死ね」と書いてあり、びっくりした。
この日は、屋内の舞台でやる「競演阿波踊り」を見に行ったのだが、その踊りの技術とアイディアの自由さは本当に凄かった。特にソロ踊りをやるじいさんやオバハンは味わい深い。じいさんはほんとにリズムに合ってんのか?と思うような踊り方をするが、それが逆に誰にも真似できない。オバハンの魅力ははじける笑顔である。不細工なオバハンほど、阿波踊りを踊るときのあの笑顔には惹きつけられるものがある。蛍光塗料を塗った手袋を着けて、照明が消えると手だけが光るという、面白い連もあった。
阿波踊りの魅力は、新しいものをどんどん取り入れて、変化し続けていることだと思う。踊り(特に男踊り)も連によって全く違うし、お囃子もフライパンやエレキギターを持ち込んで盛大にやっている連もあった。そして来てくれた観光客にも一緒に踊って楽しんでもらいたい、といった暖かみも感じられる祭である。その一方で伝統的な踊りもきちんと引き継いでおり、歴史の風格を感じさせる祭でもある。
帰りも青春18切符で帰ったのだが、酒を買い込み、明るいうちから酔っ払って若干暴れながら帰った。途中大阪によって天丼を食べたところ、非常の美味しかった。うどんばかり食べていたので、久しぶりに食べるお米のご飯がたまらなかったのである。
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