秩父夜祭(埼玉)
秩父夜祭は、大学2,3,4年と計3回も行った。秩父夜祭は毎年12月の2,3日に行われ、日本三大曳山祭のひとつとして有名であり、そのときに演奏される秩父屋台囃子もさまざまな和太鼓集団で演奏されている、有名なお囃子である。
私が2年のときは大学の授業が終わってから横浜を出発し、その日の終電で帰ってきた。秩父にいた時間はわずか2時間くらいのものであったが、それでもかなり楽しめたと思う。あの曳山が自分のほうに近づいてくるときのあの迫力は忘れられない。
秩父屋台囃子はまず大太鼓の音から聞こえてくる。大太鼓の音とともに巨大な曳山がきらびやかな提灯をつけて近づいてくるときのあの瞬間は、秩父夜祭の大きな魅力であると思う。
また、見所のひとつとして曳山が団子坂を登る姿も壮観である。見物客が多すぎてろくに見れず、公園の生垣に登って足がつりそうになりながら見た。団子坂自体は確かに急ではあるが、長さにして5メートルくらいで坂というほどのものではないのだが、それを登る曳山の姿はすごかった。巨大な曳山が常識では考えられないような角度に傾き、ギシギシひしめきながら登るのである。
もうひとつ、とにかくすごいのが花火である。その量と迫力はディズニーランドの比ではない。途切れる間もなく大量の花火が夜空を埋め尽くし続けていたのを憶えている。
3年のときは民研の強化合宿が終わってから直接行った。3日の終電に近い電車で秩父に行き、祭が終わるまで見ていた。秩父に着いたときにはすでに曳山はすべて団子坂を登りきっており、観光客がこれから帰ろうかというときに到着したのである。
秩父についてビールでも飲もうと思い、屋台で買ったら350ml缶の一番搾りがなんと500円であった。しかも飲み終わって屋台の中にあるゴミ箱に捨てようと思い、入るとそこにいたネエチャンに
「人んちに勝手に入ってくるんじゃねえ」
と怒鳴られ、びっくりした。
団子坂を登ったからには下るわけで、下るときは一般の人たちにも曳かせてもらえる。私たちも一緒に曳かせてもらったのだが、みんなでひとつのことをやっているという一体感を感じられてうれしくなった。そのときに近くにいた町内会の人が、「団子坂は登るより下るほうが面白いんだ。」と言っていたのが印象的であった。
そのまま曳山を格納する倉庫まで曳いていったのだが、みんな酒が入っているのと、祭を終えた満足感でだいぶハイテンションである。大声で掛け声をかけながら倉庫まで曳いているときに、私のすぐ前で楽しげに曳いている人に見覚えがあった気がした。掛け声に聞き覚えがあったのかも知れない。思い切って声をかけてみると、やはり以前交流会をしたことのある和太鼓サークル「結」の人たちであった。彼らは一升瓶を持ち歩きながら曳山を曳いており、準備のよさを羨ましく思った。しかし、本当に自分たちの準備の無さを痛感するのはこの後である。
夜中の1時ごろであろうか、曳山が無事倉庫に入り三本締めが終わると、みんな散り散りに家に帰り始めた。そこで初めて、それまでは熱気のおかげでまったく寒くなかったが、気温は恐ろしく低いことに気付いた。私たちは半ば行き当たりばったりで来ており、泊まることなどまったく考えておらず、どこかのコンビニで朝まで待てばいいだろうなどと考えていた。そのことを「結」の人に話すと、快く別荘に案内してくれ、美味しい日本酒を振舞ってくださった。そこで気分よくなってしまった私たちは、すでに寝ている人がいるにもかかわらず、大暴れしてしまった。恥ずかしさと、申し訳なさだけが残った。
4年のときは2日の夜に来て3日の昼頃まで見ていた。このとき一番驚いたのは表で子どもが太鼓を叩いているのを見たときである。
まだ小学校低学年くらいであったろうか。あの複雑な玉入れのリズムを完璧に叩きこなしているのである。まるで生まれたときから叩いていたんじゃないかと思うほど、自然でしなやかであった。大太鼓も素晴らしい撥さばきで秩父独特の「テケテッケ」のリズムにのって叩いていた。
次の日、再び子どもたちを見たいと思い、同じ場所に行ってみたが、子どもたちはおらず、太鼓だけが置いてあった。近くにいた保存会らしき人に聞いてみると、小学校に行っているのでいないということであった。それを聞いて驚いた。なぜなら、町中いたるところで小中学生がウロウロしていたからである。彼らはみんな学校をサボっていることになる。
秩父夜祭を見るなら、やはり3日の夜だと思う。それも出来れば最後まで見たいと思う。2日はやはりメインではないので8時ごろには終わってしまう。昼間もやっており、昼間にしかやらないイベントもあるのだが、「夜祭」だけあって昼間はどことなくぱっとしない。団子坂を登るのは3日の夜だけだし、終電さえなくなれば観光客もだいぶ少なくなる。4限が終わってから横浜を発ち、次の日の1限に間に合うことも出来るので、ぜひ一度は訪れてほしい祭である。
祭り見聞録へ 次へ TOPへ