2021年
11月のつぶやき
11月27日 風の神の歌
好きな音楽を思い浮かべたときに、いつも真っ先に思い浮かぶのが、アディエマスの「合唱曲W-風の神の歌」である。もちろん、あまりに知られていないので、思い浮かべるだけで、雑談の話題等にすることは殆ど無い。
私が高校生の時、年末にNHKで「シルクロード鉄道紀行」というようなタイトルのドキュメンタリーをやっていた。確か2回に分けて放送されていたと思う。シルクロード横断鉄道で、トルコから出発し、最後上海に到着するまでの各地で、取材をする内容である。当時はまだ治安も安定していたのか、ウズベキスタン、アフガニスタン、トルクメニスタンといった今ではアクセスしづらい土地の、エキゾチックで牧歌的な暮らしぶりが描かれていた。
番組の最後、各地で出会った人たちに「あなたの夢は何ですか?」と問いかける場面がある。「テレビが欲しい」「学校の先生になりたい」など、そこに住む人々の夢が語られたのち、上海に向かう鉄道がズームアウトして番組は終了する。この最後で流れていた音楽が「風の神の歌」であった。
といっても、この音楽のことを知っていたわけではなく、いい曲だな、と思いながら曲名もアーティストも知らなかった。そのまま高校を卒業し、大学を卒業した。
就職してしばらくし、ひとりでラーメンを食べていると、店内でこの曲が流れてきて驚いた。私は、店員に流れているBGMのことを訊き、CDを入手し、これがアディエマスの「風の神の歌」という曲だということを初めて知った。
ふとした時に思い出すエピソードである。
11月22日 親戚に会う
先週末は、久しぶりに親戚に会いに行った。土曜日は、家族で妻の実家を訪問し、日曜日は、私だけで祖父に会いに行った。どちらもおよそ2年ぶりである。第6波が来たら、また訪問は難しくなるだろう。今のうちだと思った。
子供たちは、妻の実家が大好きである。着けば、ふたりとも大はしゃぎをして、遊んでいた。妻の祖母に年齢を尋ねると、後ろの壁を指さした。そこには、内閣総理大臣、県知事、市長からの感謝状が並んで貼られている。100歳になると、国、県、市から祝福されるらしい。今でも漢字のクロスワードパズルをやっているとのことであった。
日曜日は、出張の移動がてら、私の祖父と叔母の家に寄った。寝たきりの祖父を叔母が介護している。大変だとは推察するが、叔母の明るさとバイタリティは、私の子供の頃からのイメージと何一つ変わらない。年齢は、いつ尋ねても「18」としか言わない。祖父は、おそらく私のことを認識し、訪問を喜んでくれた。手を握ってくれた握力は、その本来の力以上に力強く感じた。
11月20日 格差原理と鬼滅の刃
私は、運が良いと思う。たまたま、大学まで行かせてもらえる環境にあり、たまたま就職でき、たまたま良い女性と巡り合い、ふたりの子供を育てている。経済的にも苦しいことはなく、少しくらいの贅沢はできる状態にある。このことは、私自身の努力の結果であるとは思っていない。否、私が努力ができる性格であることや、勉強する習慣が身についていることさえも、運が良いといえる。
今の私があるのは、私自身の努力の結果だと思いあがらず、運が良かったと思うにいたった本が「これからの『正義』の話をしよう」(マイケル・サンデル著)であったことに、久々に読み返して気付いた。本書第6章で、ジョン・ロールズの格差原理のことがある。
格差原理とは、要するに個人に分配された天賦の才を公共の資産とみなし、この分配がどんなものであれ、それが生みだす利益を分かち合おうという同意を表すものだ。天賦の才に恵まれたものは誰であれ、そのような才を持たない者の状況を改善するという条件のもとでのみ、その幸運から利益を得ることができる。天賦の才に恵まれた者は、才能があるという理由だけで利益を得てはならず、訓練や教育にかかったコストをまかない、自分よりも恵まれない人びとを助けるために才能を使うかぎりにおいて、みずからの才能から利益を得ることができる。自分が才能に恵まれ、社会で有利なスタートを切ることのできる場所に生まれたのは、自分にその価値があるからだと言える人はいない。だからといって、こうした違いをなくすべきだというわけではない。(以上引用)
ここを読み返して思い出したのが、「鬼滅の刃」において、煉獄杏寿郎が死の間際に母上とのやりとりを回想する場面であった。「なぜ自分が人よりも強く生まれたのかわかりますか?」という母上の問いかけに対し、幼い杏寿郎は言葉に窮し、「わかりません!」と答える。母上は、毅然とした態度で
「弱き人を助けるためです」
と言う。続いての言葉が印象深い。
「生まれついて人よりも多くの才に恵まれた者は、その力を世のため、人のために使わねばなりません。天から賜りし力で人を傷つけること、私腹を肥やすことは許されません。弱き人を助けることは、強く生まれた者の責務です。責任を持って果たさねばならない使命なのです。」
鬼滅の刃の作者は、ジョン・ロールズの格差原理を知っているのではないかと思う。そして、上記の言葉が多くの人に違和感なく受け入れられ、映画館では涙した人も多いことを鑑みれば、ジョン・ロールズの格差原理は、本書の前半で登場するリバタリズムや功利主義よりも、日本では受け入れられやすいのではないかと思われる。
現代でいえば、「強さ」とは剣術やケンカの腕前ではない。そして、現代において「弱きを助ける」一番手っ取り早い手段は、税金を払うということである。こうなってしまえば、漫画のような熱い感覚は持ちえないが、しっかり働いてしっかり税金を納めようと思う。
11月7日 バーベキュー
今日は、優一のガールフレンドであるミハルちゃん一家と、バーベキューをした。同じ幼稚園ということで、家族ぐるみで付き合いをさせていただいている。優一は、2週間くらい前から楽しみにしていた。
私が住んでいるあたりは、バーベキューがさかんなのか、手軽に楽しめるようになっている。近場の公園で、事前に予約して500円で場所が借りられ、思う存分のんびりすることができる。2家族で、それぞれ食材を持ちより、炭火をおこして肉を焼き始めた。肉と一緒に、優一たちが掘ってきたサツマイモも焼き始めた。
基本的に、我が家の子供たちは小食である。バーベキューは大好きなのだが、焼き肉を2〜3切れも食べれば、満足してしまう。一方、ミハルちゃんとその妹のチハルちゃんは、非常によく食べる。よって、田所家が用意した食材の何倍もの食料を持ってきてくれ、お相伴にあずかった。肉、ソーセージ、ムール貝などを食べ、マシュマロを焼き、最後に焼き芋を食べたら、お腹いっぱいになった。
その後、子どもたちと凧揚げをしていたら、糸が切れて凧が飛んで行った。川のほうに飛んで行ったので、みんなで探しに行ったが、結局見つからなかった。それでも、ちょっとした冒険ができて、楽しいひと時であった。
転勤族の我が家にとって、このように家族づきあいをしてくれる友人がいるのは、ありがたいことである。お付き合いいただいたミハルちゃん一家に感謝である。
11月6日 すごい物理学講義
図書館で借りて、「すごい物理学講義」(カルロ・ロヴェリ著)を読んでいる。私は、サイモン・シンの「ビッグバン宇宙論」「フェルマーの最終定理」をきっかけに、物理や数学に関する一般向けの本を読むのが好きになった。名著と思える本は限られるなか、本書は冒頭から非常に引き込まれた。以下冒頭より引用
わたしたちは、自分自身にとらわれすぎている。わたしたちは、自分たちの歴史を学び、自分たちの心理を学び、自分たちの文学を学び、自分たちの神々を学ぶ。わたしたちの知の多くは、人間それ自体のまわりをめぐっている。あたかも自分たちこそが、宇宙でもっとも重要な存在であるかのように。わたしが物理学に惹かれるわけは、たぶん物理学が窓を開け、遠くを見るように促してくれるからである。物理学に触れていると、家のなかにさわやかな風が吹きこんでくるような気分になる。(以上引用)
私が物理をやったのは高校の授業までであったが、好きであった。授業を通して世界の仕組みが明らかになるような感覚があった。本書は、その後、紀元前までさかのぼり、これまで精霊や神々によって形づくられてきたとされる世界を、現実を形作る基本的な粒子である、「原子」から成る世界であるととらえるようになった。その後、原子の存在やサイズは、アインシュタインにより、信じられないほど単純で、着想すればだれでも理解できるような方法で証明される。以下は、ファインマンによる物理学書の冒頭より引用
なんらかの天変地異が発生し、あらゆる科学的知見を壊滅の危機に瀕したとする。そのなかで、たった一文だけを未来の世代に伝えられるとしたら、もっとも少ない語数でもっとも多くの情報を伝えるために、いかなる表現を選ぶべきか? わたしなら、「万物は原子からなる」という仮説を選ぶと思う。少しばかりの想像力と思考を働かせるだけで、わたしたちはこの一文から、世界に関する莫大な情報を読みとることができる。(以上引用)
本書は、その後、時間は存在しないこと、ビッグバンの先にあるものなど、これまでの本では読んでも理解できない世界に突入していくらしい。楽しみである。
11月2日 八月の ママのきらめく ネックレス
先週の「サイエンスZERO」は、「575でカガク」と題し、重力波望遠鏡KAGRAに俳人の夏井いつき氏が赴いて、科学と俳句をつなげるという、意欲的な企画であった。私は、俳句にはあまり興味が無いので、重力波のことだけをやってくれればいいのに、と思いながら観ていた。
この企画で、「重力波」をテーマに俳句を募集したところ、2000通を超える俳句が集まり、なかでも9歳の男の子が詠んだのが、表題の句であった。
重力波は、超新星爆発や、ブラックホール同士の合体など、宇宙の一大イベントで発生する。そして、鉄よりも重い元素は、これらの一大イベントで生み出されたと考えられている。ママのつけている金、銀、プラチナ等のネックレスのもととなる元素は、超新星爆発で生み出され、その際に発生した重力波は、何億年もかけて宇宙に広がり、太陽と地球の間の距離が、水素原子ひとつぶん伸び縮みするような、微弱なゆらぎとなって検出される。8月に、世界で初めて重力波が検出されたことを知った少年は、それとママのネックレスを結び付け、子どもならではのきらめくような俳句を詠んだ。
子供の俳句は面白いと思った。
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