2025年
7月のつぶやき




7月25日 西洋の敗北

 図書館で借りて「西洋の敗北」(エマニュエル・トッド著)を読んだ。フランスの歴史人口学者、家族人類学者である著者は、国ごとの家族システムの違いや、人口動態に着目することで、ソ連の崩壊や米国の金融危機、アラブの春、2016年のトランプ勝利、イギリスのEU離脱などを、次々と予言したことで知られる。

 日本語版が出版されたのは2024年11月だが、原書2023年9月に書かれ、主にロシアとウクライナの戦争の行く末について記されている。今から振り返っても、本書の適切な視点に驚いた。私達日本人が共有している、いわゆる「西側諸国の価値観」が、世界ではむしろマイノリティに属するらしい。ショッキングなことに、本書では、EUやアメリカは、すでに国民国家の体をなしていないと主張する。その根拠を、乳幼児死亡率の推移など、入手可能な統計データから導き出す論法は、感嘆せざるをえない。

 本書は、進むべき方向性を示さない。ひたすらに現状を嘆く内容に思える。それでも、現実を正しく認識する助けになり、なんといっても新しい視点を提供してくれたことは良書だと思った。


7月22日 猛暑

 エアコンの設定温度を28℃にして、温暖化をストップしましょうという、甘っちょろい時代は終わった。私たちは、私たちの命を守るために、積極的にエアコンを使う。当然だが、そのことは、温暖化を加速させることにつながる。

 宮崎駿は、映画「もののけ姫」を作った際のインタビューにおいて、「優しかろうが、優しくなかろうが、人間は自然に対して極めて狂暴に振る舞ってきた」としたうえで、「この映画は、『悪い人間が森を焼き払うから正しい人がそれを停めた』という映画ではないのです。よい人間が森を焼き払う。それをどう受け止めるかなんです。」と言っている。

 タタラ場の人たちは、自分が生きるために木を伐り、鉄をつくる。私たちは、大切な人の命を守るために、エアコンの電源を入れる。私たちは、悪意を持って温暖化を加速させているわけではない。それでも、温暖化を止められない無力感を感じないわけにはいかない。

 将来、地球はどのようになるのであろうか。パリ協定で定めらえた1.5℃目標は、達成できそうもない。温暖化の連鎖は止められず、私たちは灼熱の地球を生きることになるだろう。

 今日、早めに仕事が終わったので、家の近くを走った。夕方とはいえ、30℃を超える気温であったと思うが、近くを流れる川沿いを走れば、私の大好きな真夏の光景が広がっていた。青空を舞うトンボ、西日に照らされた入道雲、陰影のくっきりした照葉樹の葉。

 私は、私が住む地球が大好きだということを再認識した。灼熱の地球であっても、私はこの星の夏が好きである。


7月18日 刹那のベトナムカフェ

 私の職場の最寄り駅は、寂れている。以前は、改札口のすぐ横に、キオスクのようなショップがあったのだが、つぶれた。改札を出たところにあるうどん屋も、つぶれた。キオスクといい、うどん屋といい、エキナカの定番がつぶれるのだから、その寂れようは筋金入りだと思う。

 最近、キオスクの跡地に、ベトナム風のカフェができた。キオスクでさえつぶれる立地に、ベトナム風カフェとは、なかなか無謀な挑戦である。店の中は薄暗く、ベトナム人の常連客がたむろしており、入りづらい雰囲気である。

 そんなカフェに、私と同じく電車通勤している職場の人が入って、バインミー(フランスパンを使用したベトナム風サンドイッチ)や、ベトナム風春巻きを買った。値段も手ごろで、味も美味しかったらしい。

 今日の帰り、電車の待ち時間が長かったので、このベトナム風カフェに入ってみた。中にはベトナム人しかおらず、雑然としている。私は、一気にインドネシアのワルン(食堂)に来たことを思い出した。350円で、殻付きエビの入った巨大なかき揚げ2個と、サラダがついてきた。このヴォリュームでこの値段は、かなり安い。テイクアウトにして、駅のベンチで食べれば、かなり満足できた。

 次はバインミーも食べてみようと思った。おそらく、この店はもうすぐつぶれるだろう。つぶれる前に、刹那のベトナムカフェを堪能しておきたいと思った。


7月16日 あんぱん

 今週のNHK朝ドラは、「ガード下の女王」の異名を持つ代議士、薪鉄子がマージャンでイカサマをして逆転勝ちするところから始まる。アンパンマンの声優、戸田恵子氏が演じる薪鉄子は、ほのぼのとしたアニメの印象とは異なるものの、そこに描かれる本質はアンパンマンそのものかもしれない。

 アンパンマンには、「ひもじい人に食べ物を与えることは、究極の正義」という原点がある。飢餓状態にある弱い立場の人たちをを救うべく、戦後日本に現れた薪鉄子は、まさに実写版のアンパンマンだと思った。

 ネットで調べると、薪鉄子のモデルは、「鉄火のマキちゃん」という意見もあった。確かに、名前もキャラも合っている。アンパンマンと戦後日本が不思議に融合する、名作だと思う。今後も目が離せない。


7月6日 テラスの旅路

 宝石の原石のような小説であった。「テラスの旅路T」(響乃みやこ著)は、小学6年生の小説家が書いた長編ファンタジーである。自費出版で出したというこの小説は、世界が崩壊した300年後の未来を生きる少女が、旅をしながら世界の秘密を解き明かしていくストーリーで、笑いあり、手に汗握る展開ありの躍動感あふれるストーリーであった。

 12歳の作家なので、ベテラン作家のような緻密な世界構成はできないし、経験の少なさもあるものの、それをはるかに上回るほど、楽しんで書いていることが読者に伝わってくる。小説を書くことが楽しくて楽しくて仕方がない、そのような思いが、行間からほとばしり出ていて、読者を小説世界に惹きこんでいく。独特の表現技法は、幼さゆえではなく、この人の個性として、これからも輝きを放つにちがいない。

 本書はまだ1巻である。「上巻」とかではなく「1巻」ということは、長いつきあいになりそうだ。本書だけでは、世界の秘密はほとんど分からない。続編が楽しみである。

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